荒削りだからこそ生まれた奇跡のような映画を、変えずに残してほしい。本作の撮影監督・川越道彦氏から川島透監督へと受け継がれたその想いとともに、今回のリマスターは我々に託された。いまの技術を使えば、映像を滑らかにし、いわゆる「きれいで見やすい映像」に仕上げることも可能である。しかし『竜二』を改めてスクリーンに蘇らせるにあたり、求められたのはそうした「きれいな」仕上がりではない。我々の役割は、その想いを技術の面から形にしていくことだった。
作業は、35mmオリジナル・ネガフィルムの4Kスキャンから始まる。オリジナル・ネガには、上映用プリント以上に、撮影時の光が高い解像感と豊かな色の階調のまま刻まれている。そのネガを4Kで取り込み、フィルムの持つ情報を余すことなく引き出したうえで、2Kへと仕上げる。ネガを起点に一から作り直すからこそ、既存のマスターとは一線を画す精細さと階調を画面に呼び戻すことができる。また、フィルムスキャナーは機材ごとに画の質感が少なからず異なるため、今回は、よりフィルムらしさを素直に残せる機材として、Lasergraphics社のScanStationを採用し、修復へと続く工程を組み立てた。
ネガの保存状態は概ね良好だったものの、やはり40年以上の歳月による劣化は避けられない。ゴミやキズ、画面の揺れといった症状を、画の生々しさまで削ってしまわないよう取り除き、公開当時の姿へと戻していった。その過程で、ごくわずかなコマ飛びも見つかっている。1秒にも満たないが、川島監督の指示のもと、少しでも視聴を妨げる要素はなくしたいと該当部分を削除した。
リマスターにおいて重要な作業であるグレーディング(色を整える工程)にあたっては、まず何を拠り所とすべきかを見定めるため、現存する上映用プリントや、これまでに発売されたDVD・Blu-rayなどを比較した。それらの制作年代や制作経緯を調べつつ、本来目指されていた『竜二』の色の方向性を探っていく。判断の軸となったのは、当時監督として現場に立った川島透監督の率直な意見である。さらに、『竜二』の3年前に公開された『狂い咲きサンダーロード』で撮影デビューを果たし、同時代の空気を知る撮影監督・笠松則通氏がグレーディング監修として加わり、当時の雰囲気の再現をより確かなものとした。調整は劇場に限りなく近い環境のスクリーンで行い、色彩の階調や黒の締まりから、グレイン(フィルムの粒子)の立ち方まで、上映を前提に整えている。
なかでも最後まで慎重に扱ったのが、グレインである。ともすれば、現代の映像では敬遠されることもあるが、本作においては特別な意味を持つ。35mmフィルムならではのこの質感は、『竜二』という作品の成り立ちそのものを物語っている。その手触りを失うことのないよう、調整を重ねた。
音声についても、上映用プリントと聴き比べながら、モノラルならではの力強さを損なわないよう仕上げている。
この画面から、あの時代の荒々しい息づかいを感じ、奇跡の映画を受け取っていただけたなら、修復に携わった者としてこれ以上の喜びはない。
水戸遼平: