「ユリ子のアロマ」清水崇監督からの長いコメント全文掲載

04.10.2010 · Posted in domestic, movies, news

「予め断っておくと、吉田監督は僕の事務所の後輩だ。

だから、このお薦めコメントを書いている……のではない。(以前、吉田作品へのコメントを断らせてもらった事もあるし…正直過ぎ?)今この時は、むしろ、書かせてもらっている…と思えるほどだ。

作品造りに取り組む時の、鋭い真剣さをその奥に宿した、彼のあの純朴過ぎる眼は怖い。

「実は子供が出来ちゃいまして…なんで、入社させてください」と彼が来訪した時のあまりにあっけらかんとした、あの態度と、その眼の奥に宿した、人生を見据える厳しさに立ち向かおうとしている吉田監督の姿は今も脳裏に残っている。

しかも、その上何と入社して最初にしていた仕事が、自主映画製作!?

確かに僕自身も、入社して数年の間、赤字社員でありながらノホホンとしていたが、そんな僕から観ても、「えっコイツ何様?」である。

しかも、蓋を開けたら、撮影初日後に「いやぁ~芝居が納得いかなくて、1カットも回せませんでした…」と抜かしている事態!?

「えっちょっと待って!?…彼の中で、ウチの社内で、一体何がどう起こったら、こういう事が許されてるの?」である。

…しかし、その時に彼が取り組んで、完成した作品(『象のなみだ』)を観て、僕は愕然とした。

吉田監督は、確実に自身の人生を完全に逆転され、その180度方向転換を強いられて(強いて)しまった自分や周囲との関わり、命の責任やら状況やらを、涙の覚悟の中で、完全に見据えてしまっていた…!

…しかも、それを、自ら素っ裸になって、汗だくになって、人間臭い見事な作品に仕上げてしまっていたのだ。

人(特に女性)によっては、あの短篇映画を非難する方もいるかもしれない。

しかし、そう思った人は、自分本位過ぎて、人や世間を表面でしか観れていないのでは無いか?とさえ思える出来の作品だった。

あの作品には「妙な綺麗事」や「生半可なハッピーエンドの素振り」など一切無い。

男女問わず、汚さも、駄目さも、弱さも、浅はかさも、そして自身の力で蘇らせようとする(本当は不安で仕方ない微かな)希望さえも、全部ひっくるめて描かれている。

実は良く観れば、女性の側の「不安、傷、いたたまれなさ、潔さ、ズルさ、男には持ち得ない寛容さ、愛おしさ」さえ見据えられ、作品の中に無理無く自然に収まっている。

主役の男中心に描かれているようでありながら、実は決してそうではないのだ。

※上記の評価に関しては、当時の吉田監督本人に果たしてそこまでの意識や意図があっての事だったのか?は定かでないが、少なくとも彼はあの時、「今しかない、今、俺はこれを撮らねばならない、何としても撮っておかねばならないんだ!」という別に根拠なんてまるで無い!あろうが無かろうが、そんなもんどーでも構わない!といった自身の情動と強く苦しい思いに駆られた使命感から動いていたに違いないのだ)

僕は、自作にどこかで自身を投影させてはいても、そのままの素っ裸な自分を描こうと思えるほどの自信も無ければ、そういう自己陶酔的な匂いの作品は元々苦手だ。

しかし、吉田監督が『象のなみだ』を撮った年頃に、あそこまで人生を見据える事は出来なかったし、作品へかける想いも確実に行き着いてはいなかった。

だから、彼は僕にとって脅威なのだ。

僕には決して持ち得ないであろうセンスと才能、、そして何よりも自身の想いや人生を、自主映画の段階で、既にキッチリと作品に昇華させてしまっている結果。

そんな吉田監督にも、何とか商業ベースに乗って、映画を創る仕事で飯を食って生きたい…自分を含めた家族の生活をなるべく安定させたい…といった当然の想いやいやらしさは垣間見える。

しかし、それは下劣な貪欲さとかでは決して無い。

彼自信も、自分のそういうところに、未だ自ら羞恥心を感じながら生きている…と思える程の人間らしい芸術的な可愛さをちゃんと秘めている。実際、そういう表情で生きている。

何て素直で、何て純朴で、何て駄目な、何て頑固な、魅力的な男なんだろう…と久々に会う度に感じる。

そんな吉田監督が、満を持して放つ、初の長編変態純愛悲喜劇…『ユリ子のアロマ』。

『象のなみだ』の頃の切迫した、生き急いでさえいると感じた若気の熱い想いや切ない力強さがあるか?はわからないが、それは是非皆さんに劇場で体感して欲しいと思います。

不器用で可愛い、熱い男が世に放つ“人間の性質や魅力を描いた映画”です。

あぁ、どうせなら、やっぱちゃんと言いたいな…あえて言ってしまうと…この映画の製作現場では、主演の江口のりこさんと吉田監督は衝突したそうです…

(…過去に自主製作短篇『お姉ちゃん、弟といく』でも一緒に作品造りしているのに!)

しかし、やはり、それも作品の中で彼女の表情や芝居にきっちり表れていますし、観ていただければわかると思いますが、見事に映画に出ちゃってます。

しかし、そこさえも両者(吉田監督と江口さん)に親近感を覚えさせ、共感を惹かれるのは、彼らが汗臭い人間同士として、喧嘩できるほどにきちんと向き合っているからではないか?

と、そんな風にさえ理想的に思えてくるのです。

それはおそらく、僕が吉田監督を後輩として知っているからでは無いと思います。

僕はそれさえも「江口さんが何故前半と後半とであんなに顔が違うのか?」を感じつつ、本人達に別個に聞いたら、何やらいろいろ大変だったそうで…。

しかし、不思議な事に、それが作品にとっては、功を奏しているんじゃないか?と感じてしまう。

いずれにせよ、2人とも実に魅力的な女優と監督との、2度目のコラボです。

才能ある者同志は、どうしたって時にぶつかるものです!

僕だったら、江口さんとぶつかってまで彼女と向き合いながら、作品を創れるかどうか…?

長くなりましたが、吉田監督の『ユリ子のアロマ』完成しました。是非是非観ていただきたい!!

そして、時期をズラして…初の劇場公開される吉田監督の自主製作短編集。

『お姉ちゃん、弟といく』&『象のなみだ』も是非是非観ていただきたい!!

受け取り方、評価は人それぞれでしょうが、ここに並んだ吉田監督作品には必ず何かしら感じ入るものがあるはずです!!

また江口のりこさんの女優としての軌跡が垣間見られるのも、お得なラインナップではないか?と思います。

いや、どんなジャンルだろうが時代だろうが、好き嫌いの思考は個々にあろうが、流行とか何とかじゃなく…いいものはいいんです!

そんな忘れがちだけど、当たり前の事を彷彿させてくれる、優しく、痛く、可愛い映画たちです!!??」

by清水崇
(映画監督『呪怨』シリーズ『稀人』『輪廻』『幽霊VS宇宙人』シリーズ『戦慄迷宮』『SOIL』)

ユリ子のアロマ 劇場予告編