映画『さまよう獣』

DIRECTOR'S STATEMENT 内田伸輝

DIRECTOR'S STATEMENT

人間は、他の動物とは違い、悩み、迷い、生きている。
自分どうしたいのか、どう生きて行きたいのか、そんな事を考えて、日々眠れなくなり、悶々としながら生活をしている人は少なくないはずだ。
しかし、そのような事を考えるのは、ある意味人間だけで、他の動物達は本能のままに、腹が減ったら食べて、発情期が来たら子孫繁栄のためにセックスをして、そして、時期が来たら死んで行く。
けれども人は、その動物的な日常を退屈に思う。毎日毎日、同じ事の繰り返しで、何も変化の無い日常をつまらない事として生きている。
だから、手っ取り早くそれを解消する方法として、人は恋をする。恋する相手がいない時は、無理矢理にでも誰かに恋をする。
恋する方も、恋される方も、何も変化の無い日常よりはマシとばかりに、恋愛の駆け引きに燃え上がり、やがて欲望に支配され、もっと、もっと、と高みを目指し、恋愛に限らず、刺激的な毎日を求めて、生きて行こうとする。
そんな毎日の中で、僕たちは2011年3月11日、東日本大震災を経験した。

地震、津波、原発事故と、世界的にも類を見ない災害に僕たち日本人は突然襲われた。
圧倒的な破壊と、理不尽すぎる事故に僕たちは翻弄され、すべての力を奪い去られるように、ドッと疲れに襲われる毎日。
そんな時に思う。何も変わらない日常の大切さを。毎日、ご飯を食べ、安心して眠りにつく事の大切さを。
もうこれ以上、刺激は要らなかった。ただ、ただ、安心して生きて行ける、今までと変わりない毎日を、淡々とでも良いから、生きて行ける毎日を、心から望んだ。

それまで映画において繰り返される日常と言うのは、「退屈の象徴」として描かれるケースが多かった。しかし度重なる災害によって僕たちは、いや僕は、「日常」の繰り返される大切さに気づいた。
何も変わらない朝ごはん、いつもと変わらない昼、そして皆で囲む夜ご飯の食卓。
「さまよう獣」に出て来る田舎の光景は、そう言った日常の積み重ねからの物語だと思っている。
そして、「さまよう獣」は、自主映画「ふゆの獣」同様に恋愛依存に苦しむ女性の物語であり、「ふゆの獣」では主人公の女性が恋愛依存中だったのに対し、「さまよう獣」は恋愛依存から必死に抜け出そうとする姿を描いた物語である。
混沌とした世の中に疲れる毎日。そんな時は是非とも『さまよう獣』を観て頂ければ、何らかの癒しになれば良いなと思います。
内田伸輝


FROM PRODUCERS

才能溢れる有望な新人監督を、私達の手で本格的な商業映画にデビューさせるプロジェクトの一つが本作品です。
内田伸輝監督の「ふゆの獣」を観た時に、この監督に新作を撮らせたいとの衝動に駆られ、その機会を探っておりました。
今回、この私の思いにご賛同いただいたパートーナー会社・プロデューサー・キャスト・スタッフの方のご協力により、本作品を完成させることが出来ました。
新人監督で、しかもオリジナル脚本という挑戦的な作品ですが、内田伸輝ワールドをご堪能いただける作品に仕上がったと思っております。
お楽しみいただけたら幸いです。
竹内崇剛 エクゼクティブ・プロデューサー(アミューズソフトエンタテインメント)